デザインという仕事はなぜコンペによってただ働きが蔓延するのか?
- 2016.09.27
- Web制作
コンペは、発注者側からとってみれば低コストで複数の提案を吟味することが出来るとてもメリットのあるプロセスです。しかし、参加側からしてみればお金になるか分からないとても曖昧なものです。そんな曖昧なものでもコンペはなくなりません。ではなぜコンペはなくならず、苦しむ人々が後を絶たないのでしょう?
ただ働きのコンペが存在する理由
コンペでただ働きがなくならないのは、需要と供給の関係でしょう。提案者は何も好き好んで取れるか分からないコンペに参加しているわけではありません。仕事が潤沢に入ってくればお金になるか分からない仕事をするのなんて馬鹿らしくてやってられません。しかし、仕事がほしい、まとまった規模の案件を受注したいといった状況でコンペに参加せざる負えないのでしょう。(まぁ付き合いで参加することもありますが)
クラウドソーシングサービスのロゴコンペなんかは需要と供給のバランスが極端になってます。決定者一人に3万程度の報酬を設定するだけで数十作品の提案が集まる状況です。なぜこんなコンペに参加する人がいるのでしょうか?力試しや趣味で参加してみたいという人もいるでしょうが、大半は実績がないのでタダになるかもしれないけど、仕事がほしいがために少しの可能性にかけて提案を試みているようです。
言ってしまえばクライアントは提案者の弱い立場を利用して無理を強いているようなものです。提案者の足元を見ているコンペを私は勝手に「足元コンペ」と呼んでいます。
私はデザイナーとしてお金をもらってきているので「デザインをする」=「時間を使う」=「費用の発生」と考えています。とてもこんな「足元コンペ」に参加しようとは思いません。
このようなコンペですが、駆け出しのデザイナーばかりでもなく、デザイン職を定年退職したはいいが趣味と実益を兼ねてやっている凄腕のデザイナーも中にはいますので、結局はそういった人たちに仕事が流れていくので、駆け出しのデザイナーはますます苦しい状況を受け入れざるおえません。
力試しや練習程度で参加するのは良いでしょうが、本気で食べる為に毎回コンペに参加していても精神的にすり減るだけです。
こういったクラウドソーシングのコンペではなく、安定したクライアントや仕事の受注方法を見つけなければ、デザイナーとして長く活動するのは難しいでしょう。
コンペ・提案は盗用の危険もある
また、極端な例になりますが、コンペに参加しアイデアだけ取られるという事例も発生してます。
コンペを繰り返した揚げ句、アイデア盗用(←は中国企業の極端な例ですが、参考程度に)
国内の有名なクラウドソーシングサービスでも、提案だけさせといてアイディアだけ登用されるという事態が起こっています。
私自身もとあるクライアントに提案したものの結局受注までつながらず、しばらくして何気なくそのクライアントのサイトを見てみたら、他社がリニューアルしたようなんですが、私が提案したデザインが盛り込まれていたという経験もしました。おそらく費用面で都合が付かなかったのでしょうが、安くでやってくれるところに提案だけ流用したのでしょう。しかし言わせていただけば、その提案に対して費用が掛かるのですからある程度高くなってもそれを受け入れてほしいものです。
ではなぜこのようなただ働きや盗用が起こるのか?
盗用が起こる理由としては、クライアントのコンプライアンス意識の欠如としか言えません。
アイディア(提案)は形として存在しないのでそれを別で使用することに罪悪感を感じることがあまりないのでしょう。盗用した側は「流用」したものだと勘違いしているのかもしれません。しかし、提案側からするとそれを作るのに頭脳労働をして作り上げた知的財産であるわけです。それを対価なしに「流用」という認識で使われては困ります。それは「盗用」です。
提案者に配慮したコンペ
コンペは何もすべてが提案者を苦しめているわけではありません。中には参加者に一定の謝礼を出すコンペもあります。そのようなコンペであれば、もしコンペで仕事が受注できなくても自分の提案が少なからず利益を生みますので精神的にも救われます。
しかし残念ながらデザインのコンペ参加に一定の謝礼を出すのは、大手の広告代理店くらいです。地方なんかではコンペで謝礼が出たなんて話を聞いたことがありません。
そしてコンペを行い結果が出るにあたって、決定にいたったプロセスや採点などをある程度開示してほしいものです。その時は仕事を受注できなくても、提案者側としては考えやり方などを補正することができます。落ちた理由が分からなければいつまで経っても向上することができないのですから。
行政系の発注する制作の仕事は、特定の発注者への偏りを防ぐのと適切な価格・品質を維持するためにほとんどがコンペになります。そこで仕事を勝ち取ることが出来れば、それなりの規模(額)の仕事にありつくことができますが、落としてしまえばそこまで作った作業が無駄になってしまいます。
一応採点の点数表など仕様を示してくれるのですが、業者が決定したあとにどのような点数であったかとか細かい採点などは教えてもらえることはほぼありません。デリケートな情報を扱っている機関でもあるので、中々決定までの経緯などを公表するのは難しいのかもしれません。
結局コンペや提案は悪なのか?
コンペや提案は提案者側からは疲弊を生むものになりやすいですが、だからといって無くしてしまってはクライアントが不安を抱えることになります。
クライアントがすでに信頼のおける業者とのパイプが出来ていればわざわざコンペにする必要はありません。しかし、規模がでかい、業者のツテがない、実績だけで判断するのが不安な場合はコンペや提案が必要になります。取引のなかった業者にエイヤ!で発注して納得できないものを納品されても困ります。
コンペは必要なものではありますし、有効な選定方法なのですが、それを忌み嫌われるものとする原因は発注者側の認識不足による提案者側の疲弊です。
提案はその時点で業者側の作業が発生しコストを投じているのですが、そういった認識を持っていないクライアントがいるのが問題です。またひどい場合「仕事をもらいたいならタダかもしれないけど頑張るのはあたりまえだよね?」的な考えを持っているクライアントが少なからずいるのが問題なのです。
コンペのあり方
有効なコンペを行いたいのであれば余裕があれば、謝礼を出すのも一つの手です。
業者側としても、無償労働になるかもしれないと思って提案するのと一定の謝礼が出ると思って提案するのでは品質に違いが出てくるでしょう。タダ働きになるかもしれないとどこかで思ってしまえばある程度手を抜いてしまうこともあります。
謝礼が無理なのであれば、コンペ・提案を業者から受けるにあたって、もしかしたらタダで働いてもらうことになるかもしれないという認識をしておくだけでも色々と配慮が生まれ、業者側の負担も減るのではないでしょうか?
クライアントもコンペの生じる弊害を認識して置けば業者ももっと提案しやすくなるでしょうし、業者(制作者)も仕事欲しさにむやみにコンペに飛びつくのではなく、総合的に判断してコンペに参加するか否かを決定すれば、「足元コンペ」は自然と減っていくのではないでしょうか。